PBP2019まとめ - 本番編

事前の計画

私がこれまでに走った夜スタートのブルベはR東京の金太郎ナイトのみ.仮眠を伴うものは経験がなく,正直計画を立てかねていました.とりあえず事前には以下のようなものを想定していました.

 

  • 初日はオールナイトで走って,昼前に到着するFougeresで数時間お昼寝.
  • 以降は,Loudeac(往路),Loudeac(復路),Mortagne-au-Percheで22時ごろから3時の間で数時間ずつ仮眠.

 

仮眠時間がチェックポイントの混雑のピークにあたりそうで,混雑を避ける意味ではずらした方がよいでしょうが,バッテリー容量が不安なところではやはり暗い間に休息を取りたいと上記のような計画としました.

 

...が,結果的には全然思い通りになりませんでした...

 

Rambouillet ~ Mortagne-au-Perche

18:30に予定通りにスタート.沿道ではたくさんの人が応援してくれていて「これがPBPか」と感慨深く走りだします.

 

これだけ多くの人と走る経験はなく序盤はペースを掴めませんでした.というのは日本では1列で走るのが一般的ですが,PBPでは2列,3列で走ることが多く,周りを囲まれるとなかなか抜け出せませんでした.周囲を見ると年配の男性,女性が多く「ゆっくり目のペースなんだろうな」と思いつつ,速く走るつもりもなかったので気にせず走っていました.

 

しばらくすると,絵画で観たような広大な田園風景を目の当たりにして,楽しくて笑顔で走っていました.

 

ところが,数十km走ったあたり,路面の悪い急な下り坂で前輪をパンクさせてしまいました.一応,"例のポンプ"で6気圧くらい入れていたはずですが,まだ弱かったみたいです.スタート地点でフロアポンプを借りれるだろうという期待のもと,携帯ポンプしか持って行きませんでしたが,スタート地点が広すぎて見つけられず携帯ポンプだけで臨んだのが少し誤算でした.

 

いずれにせよ,慎重にチューブを交換して,また例のポンプで300回強ほど空気を入れました.多分これで5気圧程度になっているはずです.

 

これで大分時間をロストしました.自分はK組でしたが,まわりを見ると後続アルファベットの人が多かったです.

 

Mortagne-au-Percheには8/18 23:50ごろ到着.さっそくPBP名物 パスタ・ボロネーゼとスープを食べました.自分には結構おいしくこれなら大丈夫と思いました.予備のチューブを買い足したりして,1時間弱滞在しました.

 

Mortagne-au-Perche ~ Vallaines-la-Juhel

ここからは完全にナイトライドです.これもPBP名物の赤いテールランプが無限に続く中を走っていきました.この辺では団子状態は解消していて,まあまあ自分のペースで走ることができました.

 

驚いたのが速い女性が多いこと.男性に引かれるでもなく単独で走っていて速い.海外は層が厚いと思いました.

 

PBPではたくさんの街を通過しますが,街の中には公衆トイレがあるところがあります.途中,公衆トイレがあったので"大"にチャレンジしました.形式は和式に近いですが金隠しや堀はありません.平面に穴が空いていてその左右に踏み台のようなものがあるだけです.中腰でチャレンジしましたが上手くいきませんでした.(失敗したという意味ではない).これは大変だと思いまた走りだしました.

 

途中,ふと沿道の芝を見ると,巨大なナメクジがたくさんいました.全長は日本の大型のものと同じくらいでしたが,太さが5~10倍くらいある.とてもこんなところでは野宿できないと思いました.仮眠にしろトイレにしろ,日本の清潔な環境とは随分違いそうだと思いながら走りました.

 

そんなことを考えながらしばらく走っていると前輪に違和感を感じてきました.さわってみると空気が大分抜けていました.どこかでスローパンクをしたようです.やっぱり圧が少なすぎました.どうしようかと思いましたが,次の Vallaines-la-Juhelまで20km程度だったのでチューブはそのままで空気だけ入れて走ることにしました.中途半端に対応するよりコントロールでプロにチューブ交換してもらう方が効率がよいだろうと.結局,20kmで3回ほど空気を入れ直して走りました.毎回200回ほどスコスコしました.

 

8/19 5:15にようやくVallaines-la-Juhelに到着.さっそくチューブを交換してもらい憂いをなくしました.ここはPBPのコントロールの中でも大きな町で,コントロール手前の商店街では早朝だというのに多数のカフェやパン屋が店を開けていました.自分も寄れたらよかったですが,パンクで頭が一杯で何も食べずに通過しました.

 

Vallaines-la-Juhel ~ Fougeres ~ Tinteniac ~ Loudeac

パンクが直って漸く憂いなく走れるようになりました.途中,Ambrieres-les-Valleesのカフェでケーキ,ポタージュで休息を取りつつ快調に走って,予定より少し早く8/19 10:10にFougeresに到着しました.

 

計画ではここで3時間ほど仮眠を取る予定でしたが仮眠施設が見当たらない.他の参加者を見るとレストランの床で仮眠を取る人が数名,外の木陰で眠る人も数名.自分も木陰で仮眠を試みるものの地面が湿っていてとてもここで3時間ゆっくり眠ることは無理そうです.仕方ないので,混雑上等!と予定を変えてLoudeacまで一気に行くことにしました.

 

途中,Tinteniac, Quedillacでも休息を取りながら,Loudeacに到着したのが8/19 19:02.何とか混雑する前に到着できたと,そそくさにドロップバッグの荷物を入れ替え,余計なことをして混雑に巻き込まれないようにとシャワーはあきらめ仮眠所で仮眠しました.3時間ほど寝て23時に起きてレストランでパスタを食べて走行再開しました.

 

国内のブルベだと通常5~6時間仮眠を取るのですが,3時間くらいの仮眠の方が身体がバキバキにならなくていいなと思いました.ブルベの疲れって数時間の仮眠で回復できるものではないので中途半端に長い休息をとると疲れが表面化して却ってつらくなるような気がします.

 

Loudeac ~ St Nicolas ~ Carhaix-Plouguer ~ Brest

Loudeacからのナイトライドはなかなかキツイものでした.睡魔が襲うというよりは気が付くと夢を見ながら走っているような感じでした.危険なので本来ならば仮眠を取るべきですが,寒くてそうにはいかず塩タブを舐めて少しでも刺激を与えながら走りました.正直,ランドヌール失格の危険な行為でした.

 

幸いなのはこの区間は40~50kmごとにコントロール,サービスがあってメリハリのある区間だったこと.途中,Sizunという街でコーヒー,クロワッサンをいただいて目を覚ましながらブレストに向かいました.

 

Carhaix-PlouguerからBrestの区間はコースの中でも絶景のポイントでした.稜線を走るコースで左右に広がるフランスの広大な風景.日が昇るにつれテンションが上がり眠気が覚め,PBPの中でも最高のライド区間の1つでした.

 

橋を渡り,ついにブレストに着いたんだと高いテンションのまま,坂を上って8/20 10時26分にブレストのコントロールに到着です.ブレストのトイレは綺麗だったので,大をなしてすっきりして折り返していきました.

 

Brest ~ Carhaix-Plouguer ~ Loudeac

復路,追い風基調になって楽になるつもりでしたが,今振り返ると想像以上にペースダウンしていました.BrestからCarhaix-Plouguerの80kmに6時間,Carhaix-PlouguerからLoudeacの90kmで6時間半かかっています.

 

昨年の熊本1000で3日目以降急激にペースダウンした経験を踏まえ,意図的に「残して走る」を心掛けていたのはあるのですが,意図した以上にペースが落ちていました.

 

また途中から喉が痛み始めてしまい,その時は「はあはあしすぎて喉が乾燥したか」と考えていたのですが,結果的には風邪をひき発熱して,そのために減速していたというのもあると思います.

 

Brest周辺は本当に寒くて日中でも下りが続く区間では歯がガタガタいうほど寒かったです.

 

8/20 22時44分にLoudeacに着いたときには悪寒を感じていて完全に熱が出てる状態でした.

 

一時はここでDNFしようという気持ちが強くなったのですが,せっかくここまで来たので最後の勝負として着れるものを全部着て -- 上は半袖ジャージ3枚重ね + ウィンドブレーカー + レインジャケット,下はレーパン + レインパンツ,靴下は2枚重ね -- で毛布を頭から被って仮眠を取ることにしました.これで解熱できていなかったその時は諦めようと.

 

3時間ほど仮眠を取り目が覚めると,まだ寒さは感じるものの悪寒はなくなっており熱が下がったことを実感できました.「これなら自転車漕いで身体を温めれば回復できる」と思い,リタイアせずに継続することしました.服装は寝たときと同じできるだけの重ね着です.往路と同様,パスタを食べて身体を温めて8/21 3:55に再出発しました.

 

Loudeac ~ Tinteniac

Loudeacから漕ぎ出し身体が温まるにつれ風邪の症状は和らいでいきました.ただここまで2日で6時間しか寝ておらずナイトライドでの眠気は危険な状態でした.やはり走っているうちに夢を見てしまうことがあり,ところどころ止まりながら何とか走り続けました.

 

日が昇ってくると眠気は収まってきたものの,今度は身体にガタが出始めました.具体的にはお尻と腰の痛み.お尻の方は下からの突き上げによる打撲.腰は腰痛とは違って筋肉の張りのようなもの.漕ごうとすると腰がしびれ力が入りません.

 

ペースを上げたくても力が入らずどんどん抜かされていきます.「くそ,800km走って限界がきたか」と悔しがっていたのですが,途中でふと「あれ?でも何で右の腰だけ痛むのだろう?ひょっとしてポジションが悪いのか?」と気づきました.改めて確かめると何となく右足の方がつま先で漕いでいる感じです.試しに左靴のテンションを上げてつま先で漕ぐようにすると腰の痛み方が変わってきました.

 

やっぱりそうだ,ポジションが悪いんだと思い,停車してポジション調整をしようとしたところ何とツールセットがありません.どこかで落としたみたいです.失意のまま我慢でTinteniacまで走り六角レンチを借りて漸く調整することができました.再調整はできないので時間を掛けて慎重に調整しました.

 

この時点でタイムアウトしていることを認識しましたが,ここまで来たのだから認定内だろうが認定外だろうができる限り楽しもうと再出発しました.

 

Tinteniac ~ Fougeres

とにかく挽回しなければいけないということで乗れそうなトレインには頑張って着いていくようにしました.それまで1人で走っていたので抜かれる一方でしたが着いていこうと走れば思った以上に走れ自信が回復しました.腰の方はこれまでの疲労が蓄積していたのですぐには回復しませんでしたが,それ以上悪化する感じもなくやはり自信を取り戻せました.

 

徐々にペースを上げ,8/21 13時25分にFougeresに到着することができました.

 

Fougeres ~ Vallaines-la-Juhel ~ Mortagne-au-Perche

この区間はPBPの中でも最高の区間でした.Parisが近づいてきて街の規模が大きくなり街ごとに独特な景色を堪能することができました.途中の道も牧場や農場などフランスの雄大な田園風景を楽しむことができました.往路では夜間走行だったためほとんど景色は見えなかったのですが,「なんだこんな素晴らしいところを走っていたのか」と,また自然に笑顔になってしまいました.テンションが上がりペースもあがり,ようやく人を抜かしながら進行することができました.

 

懸案だった腰の痛みは夕方ごろにはすっかり解消していました.

 

 Vallaines-la-Juhelを過ぎたところで日没となりましたが,前日の反省踏まえ,風邪をぶり返らせないよう着れるものを着こんでナイトライドに備えました.

 

Mortagne-au-Perche ~ Rambouillet

Mortagne-au-Percheには8/22 0時22分に到着しました.ここで仮眠を取らず先に進みましたが,これも今大会の大失敗というか大いに反省すべき選択でした.大きな声では言えませんが途中夢と現実の区別がつかないような状態になってとても危険な状態でした.止まり止まり漕いで,たくさんの人に抜かれながら,ようやく8/22 6時22分にDreuxに着くことができました.

 

DreuxからRamboulletまでの区間はへろへろでした.お尻の痛みは限界に達し不自然なダンシングを織り交ぜながら漕ぎました.途中,意外にアップダウンが多くなかなか苦労しました.どういうわけだか,パリ遠方よりパリ近郊の方が路面の状態が悪いのですね.

 

87時間強でゴールすることができました.ゴールでは多くの方に「ブラボー」と声をかけていただき、夢のようなPBPが終わったことを実感しました。

 

抜け殻のようになった状態で、メダルを貰い,食事をし,ホテルに戻りました.

 

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